※本記事は、Bitcoin Tokyoによって公開されたYouTube動画 ビットコインETF:資産運用のゲームチェンジャー の文字起こし&編集版です。
2024年1月、アメリカで現物ビットコインETFが承認されて以降、ビットコインと既存金融の関係は大きく変わりました。
このセッションでは、伝統的な金融の最前線でキャリアを積んできた以下3名が登壇し、
- ビットコインETFとは何か
- 現物保有とどう違うのか
- 世界と日本のETFをめぐる状況
- 日本でのビットコインETF組成の可能性と課題
について議論しました。
- スピーカー
- 工藤 秀明(Laser Digital Japan株式会社 代表取締役社長)
- 狩野 弘一(SBI Zodia Custody株式会社 CEO)
- モデレーター
- 佐藤 陽一郎(ウィステリアハウス東京株式会社 代表取締役)
以下、BTCインサイト読者向けに、話者ごとに整理しながら内容を再構成します。
1. 登壇者とビットコイン/ETFとの関わり
工藤秀明氏:野村アセット出身の「クオンツ × デジタルアセット」
- 元々はアカデミアでブラックホールや初期宇宙の研究をしていた物理学者。
- その後、野村アセットマネジメントでクオンツ/ポートフォリオマネージャーとしてキャリアを積む。
- 直近5年ほどは野村ホールディングスでデジタルアセット事業開発を担当。
- セキュリティトークンや国内プロダクトローンチをリード。
- ビットコインETFについては、
- 暗号資産の法制度が整い始めた5年前頃から社内で検討していたが、当時は混乱もあり、一度は断念
- いま改めて同じテーマに戻ってきたタイミング
という位置付けで捉えている。
狩野弘一氏:FXトレーダーからカストディ事業へ
- キャリアの大半は外資系金融機関での為替トレーディング(20年以上)。
- 2010年代後半になると、「シャープな同僚」が次々とクリプト・フィンテックへ移っていくのを目の当たりに。
- 2019年に退職・転身し、暗号資産業界へ。
- 現在は:
- SBIグループと、英Standard Chartered傘下のZodia Custodyによる合弁会社
- SBI Zodia CustodyのCEOとして、機関投資家向けカストディインフラの構築を担当。
- 個人としては「長期保有しながら」、ビジネス面ではインフラ構築に注力している。
2. 世界のビットコインETF/ETPの現状(工藤氏)
2-1. 「ETF」ではなく「ETP」という広い枠組み
工藤氏はまず、「ETF」という狭い言葉ではなく、より広い概念である「ETP(Exchange Traded Product)」を示します。
- ETF:
- “F”はFund:上場投資信託そのもの
- ETP:
- “P”はProduct
- ETFだけでなく、
- 上場投資信託
- ETN(上場投資証券)
- ETC(コモディティ連動商品:オイルなど)
を含む「上場プロダクト」の総称。
暗号資産についても、ヨーロッパでは「ETF」というより「ETP」という表現が多く用いられています。
2-2. 先行する欧州、進む香港、「遅れている」日本と韓国
- 欧州では2015年に世界初のビットコインETPがローンチ。
- その後、複数のビットコインETPが次々に登場。
- アジアでは香港がすでにビットコインETPを導入。
- 一方で、先進国の中で「まだ暗号資産ETPがない市場」として、
- 日本
- 韓国
の名前を挙げています。
グローバルでは暗号資産ETPがかなり広がっている。アジアで“主要市場なのにまだない”といえるのは、日本と韓国くらいではないか。
2-3. スポット・ビットコインETFとは何か
- 「スポット」とは:
- 現物ビットコインを1:1で裏付けとして保有するタイプのETF。
- デリバティブや先物ではなく、ビットコインそのものを保有。
- ETFの役割:
- ビットコイン自体はカストディ側で保管。
- 投資家は、株式と同様の感覚で市場で売買できる。
2-4. 10年越しでの米国承認と資金フロー
- 2013年:米国で最初のビットコインETF申請。
- それから約10年、複数回の申請・却下・訴訟・インシデント(国内外の取引所トラブルなど)を経て、2024年1月に現物ETFが承認。
- ローンチから8か月で:
- 約230億ドルの純流入。
- 特に最初の3か月は、歴史的にも極めて速いペースで残高が積み上がった。
ビットコインETFの承認は、衝撃的だったと言って良い。承認前から話は出ていたが、実際にローンチしてからの資金の入り方は想像以上だった。
3. ETF vs 現物保有:何が違うのか(工藤氏)
工藤氏は、「ETFでビットコインを持つ場合」と「自分でビットコインを直接保有する場合」の違いを整理します(※一般論、観点ベース)。
3-1. 流動性と取引時間
- ETF:
- 市場が開いている時間のみ取引可能(典型的な株式と同様)。
- 一方で、証券口座でワンクリックで売買できる利便性。
- 現物保有:
- 24時間365日取引可能。
- 取引所・OTC・P2Pなど、ルートは多数。
3-2. 管理コスト・信託報酬
- ETF:
- ファンドマネージャーの運用・管理コスト。
- カストディ費用。
- それらをまとめた「信託報酬」が上乗せされる。
- 現物保有:
- 信託報酬は存在しない。
- 代わりに「自分でセルフカストディする手間」や「取引所リスクの管理」が必要。
3-3. 税制
- ETF(多くの国):
- 証券としての課税体系(キャピタルゲイン税など)。
- 現物保有:
- 国ごとに扱いが大きく異なる(雑所得扱い・キャピタル扱いなど)。
工藤氏は「ここが最も大きな違いになり得る」と指摘。
3-4. 機関投資家の保有状況
- 米国市場では既に:
- 少なくとも1,200以上の機関投資家がビットコインETFを保有(Form 13Fから判明)。
これは「最低ライン」であり、実際にはさらに多くの機関投資家が関わっていると見られる。
4. ビットコインETFのインパクトと他資産への波及
4-1. 世界への波及:投資手段の多様化とポジティブサイクル
佐藤氏
ビットコインETFが世界各国に与える影響をどう見るか?
この問いに対し、工藤氏は、ETFのインパクトを次の2点で捉えています。
- 投資アクセスの拡大
- 直接ウォレットを持つ必要がない。
- 暗号資産取引所の口座がなくても、証券口座だけで投資可能。
- 「投資したいが、時間も手間もない層」への大きな入り口となる。
- 産業としての裾野拡大
- ETF経由の資金が、関連ビジネスへ波及。
- カストディ/デリバティブ/リサーチ/インフラなど、周辺領域に資金と人材が集まる。
- それがイノベーションを生み、新しいユースケースを生むポジティブサイクルへ。
産業的な意味合いが非常に大きい。最終的には、経済安全保障の文脈にまで行きつくだろう。“コアとなるデジタル技術のすべてが国外”という状況は、受け入れがたい。
4-2. イーサリアムETFなど、他銘柄への波及について(狩野氏)
アメリカではイーサリアムETFも承認されましたが、ビットコインETFと全く同じ動きをしているわけではありません。
その点について、狩野氏の説明。
- ETF化によって「証券口座で購入できる」という意味は、どの銘柄にも共通して大きい。
- ただし、すべてのETFが均等に成長するわけではない。
- イーサリアムはステーキング報酬という特徴があるが、ETFのスキームではその利息分が反映されない設計も多い。
- その結果、「現物+ステーキング」に比べると機会損失を感じる投資家も出る。
このため、
- ビットコイン:
- 「価格変動への投資」が主目的の投資家にとって、現物からETFへの移行はスムーズ。
- イーサリアムなどステーキング可能銘柄:
- ETFではステーキング分が反映されない場合、「ETFだけ」で完結しにくい構造的制約がある。
5. フィロソフィーのズレ:P2Pマネー vs 伝統金融
ビットコインは本来、P2Pの電子現金として生まれ、「銀行や既存金融システムから独立したネットワーク」として設計されています。
そのビットコインが、証券取引所という「ど真ん中の伝統金融の器」に入ることについて、フィロソフィー上の葛藤を感じる人も少なくありません。
工藤氏の回答。
- フィロソフィーは、人によって違ってよい。
- 「直接セルフカストディする派」も、「ETFで間接保有する派」も共存した方がよい。
- 重要なのは、アクセス手段が“多様であること”。
- 1つの手段だけだと、入り口も世界観も狭まってしまう。
- ETFを入り口にして、年金・投信・機関投資家などのマネーが入り、最終的にはビットコイン産業全体を押し上げていく可能性がある。
伝統金融に“取り込まれる”のではなく、いずれは伝統金融そのものを変えていくくらいの存在になってほしい。
6. 日本市場の特徴と規制環境(両者)
6-1. 日本の金融リテラシーと投資教育のギャップ(狩野氏)
狩野氏
- 日本は「マクロのリテラシー」は非常に高い。
- 為替(ドル円)の水準がニュースで毎日流れ、多くの人がレベル感を共有している。
- 一方で、「個人の投資教育」「ミクロな投資スキル」はまだ十分とは言えない。
- アメリカでの教育経験と比較すると、
- マクロ知識は高いのに、
- 自分でポートフォリオを組む・リスクを取る
といった部分にギャップがあると感じる。
6-2. 規制:早くて明確だが、分断もある(両者)
- マウントゴックス事件、コインチェック事件などを受けて:
- 日本は世界の中でも早いタイミングで暗号資産を規制の枠組みに取り込んだ。
- メリット:
- ルールが明確。
- 破綻時の払い出し、財産分別などのプロセスが法律で整理されている。
- カストディ事業者にとっては、世界的にも評価される環境。
- デメリット/課題:
- イノベーションを進めたい業者(取引所、新しいプロダクト設計側)にとっては「やや抑制的」と感じられる部分がある。
- 規制の「縦割り」が強い。
- 暗号資産
- ステーブルコイン
- セキュリティトークン
それぞれに別々の法体系があり、分断されている。
工藤氏
規制がクリアであること自体はアドバンテージだが、あまりに分断されているがゆえに、全体としてのイノベーションが進みにくい側面もある。
7. 日本でビットコインETFが実現した未来像
7-1. 投資・ヘッジ・ユースケースの拡大(狩野氏)
狩野氏
- ビットコインETFが日本で実現すれば、
- 投資対象・ユースケースが増える。
- 既存資産との「新しい相関関係」
を前提としたポートフォリオ構築が可能になる。
- 担保資産としての利用、
- デリバティブ・ストラクチャードプロダクトへの組み込み
など金融市場の中での“素材”としての活用が広がる。
- ETF化によって、
- カストディ
- デリバティブ
など新しいプレイヤーの出番が増え、産業全体の裾野が広がる。
7-2. ビットコイン・エコシステム全体への波及(両者)
- ETFは「ゴール」ではなく「入口」。
- そこから:
- 認知向上
- ビジネス機会の拡大
- 法制度・インフラの整備
が進み、「ビットコインだからこそのユースケース」が広がっていく。
8. 登壇者からのメッセージ
工藤氏:伝統金融を変える“次の金融”の起爆剤へ
- ビットコインETFが実現する未来は「来るべき未来」であり、もはや避けられない。
- せっかく伝統金融のど真ん中に入ってきた以上、
- 取り込まれる側ではなく、
- 伝統金融そのものを変えていく存在になってほしい。
- 既存のインフラが硬直化して「新しいことができない」状況を、
ビットコインが被爆剤として揺り動かすことを期待している。
10年かかるかもしれないが、「次の金融」を定義していく動きがここから始まるだろう。
狩野氏:ビットコインETFは「可能性をアンロックする象徴」
- ビットコインに限らず、ブロックチェーン技術は金融・社会全体を変革し得る力を持つ。
- その象徴がビットコインであり、その先頭を走っているのがビットコイン。
- ビットコインETFの実現は、
- 新しいユースケース
- 新しい担保価値
- 新しい金融構造
をアンロックする“トリガー”になり得る。
将来的には、いま同じ業界にいるプレイヤー同士がライバルになる場面も増えるだろうが、いまは業界全体で土台づくりに取り組むフェーズ。「期待して見ていてほしい」
と締めくくった。
9. まとめ
このセッションを通じて見えてくるポイントを整理すると:
- ビットコインETFは「現物を代替するもの」ではなく、「アクセス手段を増やすもの」
- セルフカストディで直接持つ人も、ETF経由で持つ人も、共にビットコインのエコシステムを支える存在となる。
- ETF化は、価格だけでなく「産業構造」を変えるトリガー
- カストディ、デリバティブ、インフラ、リサーチなど周辺ビジネスを巻き込みながら、長期的なポジティブサイクルを生み出す。
- 日本は「規制が明確」という強みを持ちながら、縦割り・分断という課題も抱えている
- ビットコインETF実現の可能性は高いが、その先をどう設計するかが重要なフェーズに入っている。
- 最終的なゴールは、「ビットコインが伝統金融を変える側に回ること」
- ETFは、その入り口に過ぎない。
このセッションを通して、今後も「ビットコインETFが日本でどう位置付けられるのか」「ETFとセルフカストディがどう共存していくのか」を追いかけていきたいところです。




