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安全資産としてのビットコイン ―― なぜ世界で「価値の保存手段」として認識され始めたのか@WebX2025

yutaro
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BTCインサイト編集長

公開日:12/1/2025

※本記事は、FinTech Observerによって公開されたYouTube動画 Bitcoin as Store of Value: The Reasons Behind Global Recognition の文字起こし&編集版です。

セッション開始

WebX2025の朝一番、岸田首相の挨拶と同じ時間帯に組まれた最初の「ビットコイン・パネル」。あえてこちらに集まった参加者を前に、モデレーターの設楽氏(株式会社幻冬舎「あたらしい経済」)が、こう場を温めます。

「ビットコインは、そもそも政府におもねるようなアセットではないと思っています」

テーマは「安全資産(Store of Value:SOV)としてのビットコイン」。米国でのビットコイン現物ETF承認、企業による購入の進展、そして「デジタルゴールド」という評価が高まるなかで、

  • ビットコインの「安全資産としての本質的な強み」は何か
  • ゴールド(現物・デジタル)とどう違うのか
  • マイニングとエネルギー問題との関係
  • 5〜10年後、ビットコインはどんなポジションを目指すのか

が、丁寧に議論されました。

登壇者は次の4名です。

パネリスト:

  • 東 晃慈氏(Diamond Hands)
  • 立岩 健二氏(株式会社アジャイルエナジーX)
  • 辰巳 喜宣氏(三井物産デジタルコモディティーズ株式会社)

モデレーター:

  • 設楽 悠介氏(株式会社幻冬舎「あたらしい経済」)

以下、話者ごとにポイントを整理しながら、再構成してお届けいたします。

1. 「安全資産」のキーワードはやはり「希少性」

辰巳氏:ゴールドとビットコインに共通する「限りあるもの」

最初の問いは「安全資産にたる本質的な強みは何か」。辰巳氏(三井物産デジタルコモディティーズ)は、ゴールドとビットコイン両方を視野に入れながら、こう切り出します。

  • 安全資産のキーワードは「希少性」
  • ビットコインには2100万枚という発行上限がある
  • ゴールドも、地球上に存在する量には限りがある

「有事の際に資本をどこに置くか」という文脈で、これまで安全資産といえば主にゴールドが中心でした。ところが、ここ数年はビットコインを含めた「安全資産」全体が、改めて意識されるようになったといいます。

東氏:法定通貨の「非・希少性」が、逆説的にビットコインを押し上げた

東氏(Diamond Hands)は、希少性という視点に賛同しつつ、対比として「法定通貨の側の問題」を指摘します。

  • 法定通貨は希少性がない。大量発行が前提の仕組み
  • その結果として、世界各国でインフレが顕在化している
  • 日本でも「コンビニのおにぎりが高くなった」といった生活実感として表れている

「発行量が増え続け、価値が薄まる法定通貨」に対する不安が、「発行上限があるビットコイン」への関心を強めている、という構図です。

2. ゴールドとビットコイン:希少性は似ていても、増え方が違う

ゴールド:「価格上昇 → 採掘増加」が起きる

ゴールドの希少性について、立岩氏(株式会社アジャイルエナジーX)は現実のエピソードを交えて説明します。

  • ゴールド価格の高騰を背景に、ガーナでは違法採掘が急増
  • 畑を売り払い、土を掘り返して金を採る動きが広がっている
  • 「ものすごい量」は増えなくても、価格上昇に応じて埋蔵量の一部が掘り起こされ、市場に出てくる

つまり、ゴールドは「完全に固定された量」ではなく、価格と技術によって“掘り出せる量”が変化する資産です。

ビットコイン:アルゴリズムが発行ペースを固定する

これに対し東氏は、ビットコインの「アルゴリズムによる供給制御」に着目します。

  • ビットコインは、プロトコルで発行スケジュールが固定されている
  • どれだけ価格が上がっても、「もっと掘ろう」と思って増やすことはできない
  • ハッシュレートが増減しても、ディフィカルティ調整によって「約10分に1ブロック」というリズムが維持される

ゴールドとビットコインは、どちらも「限りがある」という意味での希少性を持ちますが、「価格上昇によって追加供給が増えるかどうか」は決定的に異なる。ここに、ビットコイン特有のSOVとしての強みがある、という整理です。

3. 「クジラ問題」と保有の偏り:それでもビットコインが一番“マシ”?

ビットコインは「一部の大口が持ちすぎ」なのか

モデレーターから投げられた次の論点は、「大口保有(クジラ)の問題」。

  • すでに9割以上が発行済みである
  • クジラと呼ばれる大口アドレスが多くのビットコインを保有している
  • それが「一般の人にとっての安全資産」としてどう影響するのか

東氏:他の暗号資産と比べると、むしろ偏りは小さい

東氏は、この問いに対し、

  • 実は「全暗号資産の中で、ビットコインが最も保有分布の偏りが少ない」というデータもある
  • 多くのアルトコインは、財団や開発チームが最初から大量に保有(プリマイン、ICO)して始まっている
  • それに比べると、ビットコインは創世期から比較的分散してきた

と説明します。

また、「早期にリスクを取った人が多く持っている」のは不動産や株式でも同じことであり、それ自体はビットコイン特有の“欠陥”とは言い切れない、という視点も示しました。

4. 東電発スタートアップが見た「マイニング × エネルギー問題」

立岩氏:ビットコインは「電力を無駄にする悪者」から「余剰エネルギーの出口」へ

立岩氏(アジャイルエナジーX)は、東京電力出身のエンジニアです。もともとビットコインには興味がなく、「怪しいもの」と見ていたといいます。

転機は2018年。

  • 日本では再エネ導入が進み、太陽光の「出力制御」が始まる
  • 需要がない時間帯に発電してしまう太陽光を止めざるを得ず、「電気を捨てる」状況が生まれた
  • その一方で、ビットコイン・マイニングは「大量の電力を消費している」と批判されていた

そこで立岩氏は、こう考えました。

「どうせ捨てている電力でマイニングできれば、新しい価値が生まれるのではないか」

ここから、「分散コンピューティング(ビットコインマイニング)でエネルギー問題を解決する」というコンセプトのもと、東京電力発の社内ベンチャーとしてアジャイルエナジーXが誕生します。

世界規模で見ると:東京電力グループ1年分の電力がビットコインを支えている

立岩氏は、世界のマイニング規模も共有しました。

  • 世界のビットコインマイニング装置は、合計で約21GW相当
  • 年間約190TWh(テラワットアワー)の電力を消費
  • これは、東京電力グループが1年間に販売する電力量とほぼ同規模

この膨大な電力が、PoW(プルーフ・オブ・ワーク)という形でビットコインのセキュリティと価値を支えている、という説明です。

北海道・豊富町の事例:捨てていたメタンガスがビットコインになる

さらに具体例として紹介されたのが、北海道・豊富町のプロジェクトです。

  • 豊富町は温泉と天然ガスが湧き出るが、あまりに辺境のためガスの需要がない
  • 使いきれないメタンガスは「大気放出」されていた
  • そこで、メタンガスで発電 → その電力でビットコインマイニング → 町の収入源にする構想が進行中

「本来なら捨てていたエネルギーからビットコインを生み出し、地域経済を支える」というモデルケースとして、今後の展開が注目されます。

5. ゴールドの5000年 vs ビットコインの十数年

辰巳氏:SOVの“歴史”という意味では、ゴールドに軍配

辰巳氏は、自身が「ジパングコイン(ゴールド連動型の暗号資産)」を扱う立場から、あえて「ビットコインにとって不利な点」として歴史の長さを挙げます。

  • ゴールドは、紀元前の文明から5000年以上にわたり価値を認められてきた
  • 「ストア・オブ・バリュー」としてのトラックレコードの長さは、ビットコインとは比較にならない
  • その意味で、SOV単体として比較した時、現時点ではビットコインはまだゴールドに“勝てない”部分もある

一方で、ビットコインに期待している点として、

  • 決済・送金のしやすさ(UI/UX)
  • 小口決済やライトニングネットワークなど、新しいユースケースの広がり

などを挙げ、「単なるデジタルゴールドにとどまらない進化」に期待を寄せていました。

東氏:分割・検証・送金可能性で見れば、ビットコインはゴールドを上回る

これに対し東氏は、ビットコインがゴールドより優れている点として、

  • 1サトシまで簡単に分割できる
  • フルノードを動かせば、自分で真贋を検証できる
  • 国境を超えて、ほぼ瞬時に価値を移転できる

という、デジタル特有の強みを強調します。

また、「中央銀行が本当にゴールドを保有しているのかを外部が検証できない」という
現実の問題に触れつつ、

「ビットコインがデジタルゴールドではなく、むしろゴールドが“フィジカル・ビットコイン”と呼ばれる日が来る」

という印象的なフレーズも紹介しました。

世代交代とデジタル・ネイティブ

さらに東氏は、自分は今でも紙のノートとペンを使いたいタイプだとしつつ、若い世代の多くは「最初からiPadで完結している」ことに触れます。

  • 物理的なモノへの愛着は人間に普遍的にある
  • しかし、世代が若くなるほど「最初からデジタル」が当たり前になっている
  • SOVに対する感覚も、徐々にデジタル側にシフトしていく可能性が高い

そのうえで、東氏は

「長期的には、ビットコインがゴールドの時価総額を抜く可能性は高い」

と見ていることを明言しました。

6. デジタルゴールド「ジパングコイン」が見ている顧客層の変化

辰巳氏が担当する「ジパングコイン」は、ゴールド価格に連動する暗号資産です。

  • 従来、ゴールド投資家は年齢層が高めのイメージが強かった
  • 一方、ジパングコインの主な購入者は暗号資産投資家であり、相対的に若い世代
  • 「これまでゴールドに触れなかった層」が、デジタル経由でゴールドにアクセスし始めている

また、

  • ビットコインよりボラティリティが低い「デジタルゴールド」として、暗号資産ポートフォリオの一部に組み入れられているケースも増えている
  • 特にここ数年は、「日本円で持つより、ゴールドで価値を維持したい」という需要がはっきり増えている

と述べ、日本円の購買力低下が「デジタルゴールド(ジパングコイン)需要」を押し上げている実感を共有しました。

7. 安全資産なのか、ハイリスク資産なのか:ビットコインの“二面性”

モデレーターからは、「ビットコインの値動き」についても質問が飛びます。

  • 広いレンジで見るとゴールドに近い動きをする時期もある
  • 一方、短期ではS&P500などの株式市場と強く連動する局面もある
  • 「トランプ発言で株と一緒に下がるが、ゴールドは下がらない」といったケースも現れている

辰巳氏:相関が違うこと自体が、ポートフォリオ上の価値

辰巳氏は、

  • 見る期間によって相関は変わる
  • 「安全資産」として語られる一方で、「レバレッジS&Pみたいなリスク資産」として扱われることもある
  • ETF承認によって、ビットコインは一つのアセットクラスとして確立した
  • ゴールドとビットコインが、いずれも安全資産でありながら“違う動きをする”こと自体が、ポートフォリオ上の価値になる

と整理します。

立岩氏:何に対する「安全」なのか?リスクシナリオを明確にする必要

原子力発電の安全設計エンジニア出身でもある立岩氏は、「安全資産」という言葉に対して、技術者らしい切り口を提示しました。

「どのリスクシナリオに対して安全なのかを定義しないといけない」
  • 戦争・地政学リスクに対して強いのか
  • インフレに対して強いのか
  • 金融システム崩壊リスクに対して強いのか

ゴールドとビットコインは、「物理 vs デジタル」という違いもあり、どのリスクシナリオを想定するかによって、優位性は変わり得るという指摘です。

8. マイニング集中と今後の懸念

マイニングの集中について、立岩氏は次のような懸念も共有しました。

  • 理想的には、マイニングはより分散されている方がよい
  • しかし、現実には高価なASICを大量に抱える必要があり、ビジネスとしては大規模化・集中化しがち
  • 特に米国では、上場企業がマイニングを担っているケースが多い
  • 上場企業は規制当局の影響を受けやすく、「政府の意向に従わざるを得ない」リスクがある

また、トランプ氏が「すべてのビットコインをアメリカでマイニングすべきだ」と発言したことに触れ、

「1つの国にマイニングが集中するのは、分散性という観点から望ましくない」

という立場を明確にしました。

一方で、ビットコインプロトコルには「ディフィカルティ調整」が組み込まれているため、

  • 価格低迷期には、採算が合わないマイナーが撤退
  • それに応じて難易度が下がり、生き残ったマイナーの採算は改善
  • 価格上昇期には、新規マイナーが参入

という“自動的な調整機構”が働いていることも、合わせて説明しました。

9. 5〜10年後に、ビットコインはどんな姿を目指すのか

セッションの最後に、モデレーターから「5〜10年後のビットコインの理想像」について問いが投げられました。

辰巳氏:ライトニングを含む「決済インフラ」としての側面に期待

  • ビットコインETF承認は、ゴールドETFから約20年遅れの出来事
  • 「ゴールドETF後の20年で何が起こったか」をなぞるように、ビットコインにも変化が訪れる可能性がある
  • 個人的には、ライトニングなどを通じて「小口決済や日常決済」でのユーティリティが伸びてほしい
  • そうなれば単なる「デジタルゴールド」ではなく、「決済インフラを兼ね備えた価値保存手段」としてのポジションを獲得できる

立岩氏:世界中の「未利用エネルギー」をマネタイズするインフラに

  • アジャイルエナジーX設立の目的は、「マイニングで儲けること」ではなく「エネルギー問題を解決すること」
  • 世界には、人が住んでいない・インフラが整っていないがゆえに使われないエネルギーが膨大に存在する
  • ビットコインマイニングは、「電力とインターネット回線さえあればマネタイズできる」
  • そうした“余剰エネルギー”から価値を生み出し、地方創生にもつながるようなエコシステムが広がることを期待している

東氏:国家に依存しないSOVとして、ボトムアップで事例が増えていく未来

東氏は、元々登壇予定だった丸山氏(BCC)の視点も踏まえながら、こう語ります。

  • ゴールドも長らくSOVとしての役割を果たしてきた
  • そこに「国家に依存しない」「誰でもアクセスできる」デジタルなSOVが登場したことの意味は大きい
  • 特に、経済的弱者やアンバンクト層が、より容易に経済活動に参加できる可能性がある
  • 5〜10年のスパンで、そうしたボトムアップの事例が世界各地から生まれてくることを見てみたい

同時に東氏は、アメリカでは

  • 政治家が公然と「法定通貨の弱さ」「SOVとしてのビットコイン」に言及し始めている
  • ETF承認を含め、制度面・社会的認知の面でも日本より数年進んでいる

と指摘し、日本でも3〜5年、もしくはそれ以上のタイムラグを埋めるような議論が深まってほしいと締めくくりました。

カテゴリ:文字起こし

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