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ビットコイン:サイファーパンク運動からグローバル金融の未来@Bitcoin Tokyo 2024

※本記事は、Bitcoin Tokyoによって公開されたYouTube動画 Bitcoin: from Cypherpunk Movement to the Future of Global Finance (サイファーパンク運動からグローバル金融の未来) の文字起こし&編集版です。

この対談は、ビットコインを「価格」や「投資商品」としてではなく、サイファーパンク運動の延長線上にある“社会実装された暗号技術”として捉え直す内容です。

しかも話が抽象論で終わらず、PGP、輸出規制、Hashcash、DigiCash、Bitcoinの設計思想、そしてNostrとCashuまで、全部が一本の線でつながっていきます。

登壇者は以下の3名。

  • Adam Back(Blockstream CEO、Hashcashの開発者としても知られる)
  • Martti Malmi(初期ビットコイン開発協力者。現在はNostr / Iris開発)
  • 松尾 真一郎 / モデレーター(研究教授:バージニア工科大学/ジョージタウン大学)

1. “暗号の輸出規制”から始まった、サイファーパンクの原点

松尾氏はまず、サイファーパンクを「90年代後半に何をした集団か」から説明してほしいとAdamに振ります。

ここでAdam氏の導入が、いきなり象徴的です。

Adam Back氏

自分は応用暗号の研究者としてスタートした。90年代には、強い暗号を“輸出”することが米国で制限されていた。自分はRSA実装を書いて、それが輸出できないという状況があった。だからTシャツに印刷して「じゃあこれはどうだ」とやった。輸出規制の歴史の一部だ。

ここが重要なのは、単なる笑い話ではなく、暗号は最初から政治と衝突していたという点です。そしてサイファーパンクの目的は明確です。

Adam Back氏

紙の現金や対面会話で自然に得られるプライバシー権を、オンライン世界にも持ち込みたい。インターネットは設計上、IPアドレスや閲覧履歴などのログが集約されやすく、社会にとって望ましくない方向に進む可能性がある。

対応策は2つある、とAdam氏は整理します。

  • ルール(法律・規制)を整備するためにロビー活動する
  • 技術を作り、許可を求めずに権利を確保する

サイファーパンクが選んだのは後者。

Adam Back氏

我々はコーダーであり暗号技術者。だから“技術を作る”。人々が採用し、規制当局は後から追いつけばいい。

この思想が、そのままビットコインの「許可不要」「セルフカストディ」「検閲耐性」につながっていきます。

2. PGPと「暗号戦争」:勝ったはずが、終わっていなかった

Adam氏はPGPの登場を転換点として挙げます。

Adam Back氏

PGP(Phil Zimmermannによる暗号メール)は、公開鍵暗号を一般ユーザーに使える形で提供し、政府や諜報機関にとって“失われるコントロール”を意味した。Zimmermannは輸出規制を理由に法的攻撃を受けた。

松尾氏は「輸出規制が2000年に終わった。サイファーパンクの勝利では?」と問います。

Adam氏の返答は冷静で、しかし厳しい。

Adam Back氏

勝ったと思ったが、その後Snowdenが、体制側が諦めていないことを示した。企業に圧力をかけ、鍵なしで復号できるようなバックドアを仕込ませた。これは後年の展開だ。

ここでの含意はシンプルです。

  • 法制度の一時的な勝利は、永続勝利ではない
  • 技術と権力の綱引きは、周期的に繰り返される

だからこそ、許可不要な技術設計(=サイファーパンク的アプローチ)が重要になる、という流れになります。

3. DigiCashの「最高のプライバシー」と、中央集権という致命傷

次に話題は「電子キャッシュ」へ。Adam氏は90年代のDigiCash(David Chaum)を、技術的には非常に優れたものだったと評価します。

Adam Back氏

DigiCashはプライバシーの品質が極めて高かったが、中央集権的だった。中央データベース運営者が必要で、会社が破綻するとデータベースが消え、コインの正当性を誰も証明できなくなった。

松尾氏は「なぜ使われなかったのか?」と質問します。

Adam氏の説明はこうです。

  • DigiCashは実質“銀行とつながる必要がある”モデル(送金=wire transfer)
  • つまり今日でいう「ステーブルコイン的」発想に近い
  • 銀行と組むこと自体はできたが、ビジネスとして成立しなかった

そして、DigiCash失敗が残した宿題は明確です。「中央運営者が死んでも死なない電子キャッシュを作れるか

この問いが、次の話につながります。

4. スパム対策の「デジタル切手」が、PoWの種になった

ここがこの対談の核心の一つです。電子キャッシュの議論から、突然「リメーラーのスパム問題」に飛びます。けれど、この飛び方がむしろサイファーパンク的でした。

Adam Back氏

自分は匿名リメーラーを運用していたが、スパムが来る。匿名設計なので送信者を特定できず、IPブロックもできない。だから技術解決を考えた。CPU計算を一定時間行って得られる短い文字列をメールヘッダに入れ、受信者が検証できるようにした。送信者に“コスト”を課すデジタル切手だ。

これがHashcash(ハッシュキャッシュ)。そしてメーリングリストで議論が巻き起こった。

Adam Back氏

この仕組みはデジタル希少性(digital scarcity)に見える。分散的にコインを発行する方法に使えるのでは、という発想が一気に広がった。

そこから1998年前後の提案が並びます。

  • b-money(Wei Dai)
  • bit gold(Nick Szabo)
  • そしてPoWで“採掘”する概念

ただし当時は「穴」があった。

Adam Back氏

設計ギャップがあり、実装可能な完全形ではなかった。大きな課題はインフレ制御。誰でもソフトを回して無限に印刷できてしまう。

ここが“詰まり”で、Satoshiが後で解いた、という整理です。

5. 「議論はオンラインだけで進んだ」──ニッチ領域が世界を変えるまで

松尾氏が「議論はオフライン会合もあったのか?」と聞くと、Adam氏は明確に答えます。

Adam Back氏

全部オンライン。サイファーパンクは地理的に分散していたし、ニッチで技術的な議論だからこそオンラインで成立した。

これが後のビットコイン文化にもつながります。“国家”でも“企業”でもなく、ネット上の議論が新しい金融基盤を生む。

6. 学術査読なしで出たビットコインは、なぜ生き残ったのか

松尾氏は暗号研究者としての視点から、核心的な疑問を投げます。

松尾 真一郎氏

暗号のプロトコルは学術的なピアレビューが重要。なのにSatoshiのホワイトペーパーはそのプロセスを経ていない。

Adam氏は、暗号技術には「学術」と「応用」があると整理しつつ、ビットコインの強みをこう言います。

Adam Back氏

ビットコインが使う暗号は保守的で、標準的な署名・ハッシュを使っていた。だから“暗号 primitives”自体は堅い。ただし実装ミスはあり、後に修正された。

そして、学術界が当初懐疑的だった理由も語ります。

Adam Back氏

過去の電子キャッシュ研究には理想的性質(unlinkability、provable securityなど)が積み上がっていたが、ビットコインは多くを満たしていなかった。また、伝統的な公開鍵暗号は防御側が圧倒的に有利(非対称)だが、ビットコインはそうではなく、攻撃者と防御者が経済的にぶつかる“ハッシュ戦争”モデルで、学術界には衝撃だった。

そして現実はこうだった。

  • 分散こそが重要だった
  • 経済インセンティブがスケールしてしまった
  • 結果として学術界も後に形式化・体系化を試み、尊重へ寄っていった

さらにAdam氏は、自分が2013年から取り組んだ“不足の補完”として、プライバシー改善(Confidential Transactions)にも言及します。

7. 「Satoshiとの200通のメール」──初期ビットコインはどう“実装”されたか

ここで松尾氏がMartti氏にバトンを渡します。Martti氏の話は、抽象論を現場の温度へ落としてくれます。

Martti Malmi氏

ホワイトペーパーを読むのに1週間かかった。当時も代替通貨はあったが、第三者が運営するサイトに過ぎず分散ではなかった。Satoshiにメールを送り、やり取りは技術的で事務的、個人的な話は一切していない。最近、そのメール履歴(約200通)を公開した。

貢献内容も具体的です。

  • FAQ作成
  • bitcoin.org、フォーラム等のセットアップ
  • 初期ネットワークのノード運用(接続先が少なかったため常時稼働の重要性が高い)
  • オートスタートやトレイ常駐など、ユーザー導線の改善
  • 当時はラップトップでも大量にマイニングでき、結果として約55,000BTCを掘った(ただし多くを早くに売却済み)

このパートが示すのは、初期ビットコインの勝因が「思想」だけではなく、泥臭い運用とUI改善にもあった、ということです。

8. “お金の分散”から“言論の分散”へ:Nostrの論理

後半はテーマが「分散型メッセージング」に移ります。まずMartti氏が、中央集権SNSの問題を整理します。

Martti Malmi氏

今のSNSはFacebookやXのような中央主体が“誰が何を言えるか”を決め、メッセージの真正性(origin)もその主体だけが保証できる。Nostrではアカウントは鍵ペアで、誰でも署名検証できる。送信手段はWebSocketが主流だが、極端に言えばFAXでも鳩でも運べる。署名検証は独立にできる。

ここでAdam氏が、エンドツーエンド暗号を巡る「規制圧力」の話に現実的な答えを出します。

Adam Back氏

暗号を箱に戻すのは無理。20年以上、E2EEは普及していて、OSやライブラリに組み込まれている。知識は消せない。法執行機関は仕事上“悪いもの”を多く見ていて、暗号が邪魔だと言うが、社会全体は自由や権利の方を優先する。だから5年ごとに同じ議論が起きる。

そして話は「なぜ中央集権SNSが危険か」へ。Adam氏は、政府や政治的圧力との協調の問題を例に挙げつつ、サイファーパンク的結論へ寄せます。

Adam Back氏

技術で回避するしかない。Nostrのような分散SNSなら、そのリスクを構造的に下げられる。

9. スパムと持続性:Web of Trust、そしてLightningという“注意資本”の導入

分散SNSは自由だが、自由にはスパムが来ます。実際、Nostrにもスパム波が来たという話が出ます。

Martti Malmi氏

Nostrでは最近スパムが増え、クライアント側でWeb of Trustを実装している。フォロー関係(ソーシャルグラフ)で受信をフィルタする。ミュートリストも使える。検閲は中央でなく、ユーザーが決める。

そしてこの対談がBTCインサイト的に刺さるのはここです。

  • フィルタ(非金融のレピュテーション)
  • Lightningチップ(金融のレピュテーション)

Martti氏は、Irisにウォレットを統合する計画を語ります。

Martti Malmi氏

新しいIrisは、名前を入れてすぐNostrアカウントとウォレットができる。Lightningでチップを受け取れる。

Adam氏が補足します。

Adam Back氏

そのウォレットはCashu(eCash)で、90年代のChaum型DigiCashと思想的に近い。ただしビットコイン(Lightning)と接続されている。小額用途ならリスクは許容され、必要なら引き出せる。

ここで話が“美しい接続”になります。

  • 90年代:DigiCash(中央eCash)
  • 2009年:Bitcoin(分散基盤)
  • その上で:Lightning(高速決済)
  • さらにその上で:Cashu(小額・体験・チップ)
  • そしてNostr:言論とソーシャルグラフ

つまり「サイファーパンクが未完だった電子キャッシュ」が、形を変えてNostrに戻ってきているのです。

10. 最後の問い:分散の利益を守りながら“万人向け”にするには?

松尾氏が締めの問いとして投げたのは、かなり本質的です。

・完全P2Pは理想だが、万人に普及したのはHTTPのようなクライアント・サーバー
・分散の利益を守りつつ、どうやって普及させるのか

Adam氏の答えは、インターネットの原型へ戻ります。

Adam Back氏

初期のWebはみんなが自分のサーバーを持ち、検閲されにくかった。重要なのは“競争と選択可能性”。もし一つのサービスが悪さをすれば、すぐ乗り換えられる。スイッチングコストが低ければ、提供者は誠実でいざるを得ない。さらに、多数のユーザーが自分でインフラを追加できるなら、攻撃されるほど強くなる(アンチフラジャイル)。

Martti氏はNostrの特性を強調します。

Martti Malmi氏

Nostrはビットコインのように厳密な合意形成が不要で、ネットワーク設計を後から変えやすい。P2P(BitTorrentのような)も可能で、ホームサーバーも大規模サーバーも共存できる。スケールしていける。

まとめ:この対談が描いた“30年スパンの一本線”

このセッションを一本の線でまとめると、こうなります。

  • 暗号は政治とぶつかる(輸出規制・バックドア)
  • だからサイファーパンクは「許可を取るな、技術で実装しろ」を選んだ
  • 電子キャッシュは長年の宿題で、DigiCashは中央集権的だった
  • Hashcash(スパム対策)がPoWの種になり、Satoshiが未解決点を解いた
  • ビットコインは学術的理想形ではないが、分散とインセンティブで現実に勝った
  • そして次は「言論・ソーシャル」の分散(Nostr)へ
  • そこにLightning / Cashuが結びつき、“自由”と“経済圏”が同時に立ち上がりつつある

最後に、この対談の温度感を一言で言うなら、これです。

ビットコインはサイファーパンクの“歴史”ではなく、サイファーパンクが現実に勝ち始めた“現在進行形”のプロジェクトである。

そして、その延長線の1つとしてNostrやCashuがあるのかもしれません。

yutaro
yutaro

BTCインサイト編集長

公開日:10/15/2025

カテゴリ:文字起こし

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