※本記事は、Bitcoin Tokyoによって公開されたYouTube動画 How to Make a Living as a FOSS Developer(ビットコイン開発者として生計を立てる方法) の文字起こし&編集版です。
登壇者
- Calvin Kim(Utreexo開発者 / OpenSatsグランティ)
- 宮本 丈 / モデレーター(プログラマ(株式会社bitFlyer)
※当初のモデレーターは、練木 照子さん(フルグル合同会社)が予定されていましたが、急遽変更となっています。
オープンソース開発は「仕事」になるのか?
宮本氏
今回のテーマは「ビットコイン開発者として、どうやって生計を立てるのか」です。かなり現実的で、聞きたかった人も多い話題だと思います。
まずは自己紹介からお願いします。
Calvin氏
僕は韓国・ソウル在住で、ビットコインのオープンソース開発者として約5年活動しています。現在は Utreexo という「フルノードをより軽量にする」プロジェクトに取り組んでいます。
今日は、
- どうやってオープンソース開発でキャリアを作ってきたか
- どんな資金提供(グラント)が存在するのか
- どうやって申請し、継続していくのか
この3点を中心に話したいと思います。
最初に大事なこと:「情熱がなければ続かない」
Calvin氏
最初に強調したいのは、「情熱」です。正直に言うと、オープンソース開発は 安定した職業ではありません。収入も保証されないし、精神的にしんどい時期もあります。
それでも続けられるのは、
- 自分が心から面白いと思える
- 意味があると信じられる
この2つがあるからです。
もし「楽しくない」と感じるなら、この道はかなり厳しいと思います。
Utreexoとの出会いと、無給の1年間
宮本氏
Utreexoにはいつ頃から関わっているんですか?
Calvin氏
2019年です。当時、大学生でした。プロジェクトの話を聞いて「これは重要だ」と思い、最初の1年間は無給で参加しました。
ちょうどコロナ禍で、時間が取れたのも大きかったですね。
初めてのグラント:BitMEXからの支援
Calvin氏
最初に支援してくれたのが BitMEX です。当時、取引所がビットコイン開発者を支援する流れがありました。
BitMEXのグラントは約3〜4年続きましたが、最終的にプログラム自体が終了しました。
宮本氏
なぜ取引所は支援をやめたんでしょう?
Calvin氏
正直なところ、「マーケティング効果が薄かった」からだと思います。「開発者を支援しても、ユーザーはあまり気にしない」ことが分かった。
それで流れが 取引所 → 非営利団体 に移っていきました。
現在の主要なビットコイングラント団体
Calvin氏が実際に調査・申請した主な支援元は以下です。
1. OpenSats
- 自己主権(Self-Sovereignty)を重視
- Bitcoin / Nostr / Linux / WireGuard など幅広く支援
- 金額は固定ではなく「自分で希望額を書く」
Calvin氏
僕は今、ここから支援を受けています。
2. Spiral(旧 Square Crypto)
- 年額 10万ドル固定
- 支払いは USD / BTC / 半々など柔軟
- Rust、Lightning、UXデザインを特に重視
宮本氏
BTC建てで受け取ると、価格変動リスクもありますよね?
Calvin氏
そうですね。価格が下がれば実質タダ働きになる可能性もあります。
3. Human Rights Foundation(HRF)
- 人権を軸にした非営利団体
- ビットコインを「金融アクセスの手段」として評価
- 開発だけでなく、翻訳・コミュニティ活動・カンファレンスも対象
4. Maelstrom Fund
- Arthur Hayesのファミリーファンド
- BitMEXグラントの実質的な後継
- Bitcoin Coreやプロトコル設計を支援
5. Brink
- Bitcoin Core特化
- 非営利・英国拠点
6. Summer of Bitcoin
- 3か月間のインターン制度
- メンター付きでOSSに参加できる
- 若手開発者の登竜門
国・地域特化の支援は増える:韓国・日本向けインターン構想
宮本氏
グラントは国籍に依存しない印象でしたが、国別の支援もある?
Calvin氏
国別はあります。たとえば(会話の流れで触れられた)ブラジル向けのものがある。
さらに、韓国と日本に向けたインターン(メンター付きプログラム)も12月開始予定で、僕とKen(氏)がメンタリングする計画があります。
仕事探し:専用ジョブボードと「公式サイトの採用欄」
Calvin氏
ジョブボードとして Bitcoin and jobs.com が便利です。開発職に限らず、ビットコイン関連が集まる。
加えて、ジョブボードに載らない求人もある。例えばProtonがビットコインウォレットを進めていて、Proton公式の採用ページを辿ると「それは実質ビットコイン求人」というケースが出てきます。
申請書は使い回せない:団体ごとに「別の提案書」を書く
Calvin氏
恥ずかしい例もありますが、これは僕が実際に出した提案書です。Square Crypto(Spiral)には落ちました。
Brinkは良い感触だったけど成立しなかった。OpenSatsが直近の採択です。
宮本氏
全部別々に提案書を作るんですか?就職みたいに同じ履歴書で回せない?
Calvin氏
回せません。団体ごとに価値観が違うからです。
提案書の基本は:
- ビットコイン利用を阻害している“問題”を見つける
- その問題が団体のミッションと接続するかを確認する
- 解決策を書く
- なぜ自分が適任かを書く
Utreexoのように「テーマは近い」場合でも、“問題の語り方”を団体の関心に合わせて調整します。
質疑:自分が資金を要らなくても「人を雇うための資金」を取りに行けるか?
質問者
自分はフルタイムの仕事があり資金はいらない。でもプロジェクトに協力してくれる人には資金が必要。「自分が申請して、資金配分を委任される」ような形は可能ですか?
Calvin氏
可能です。Summer of Bitcoin自体が、Spiralの支援で成立しています。インターンプログラムや教育プログラムとして「企画そのもの」をグラントに申請できる。
重要なのは構造化して、グランターを納得させることです。
OpenSats運営者の一人(会場より)
OpenSatsは基本的に開発者本人の申請を好みますが、例外もあります。Summer of Bitcoinにも資金提供していますし、Bob Space Bangkokのように団体・コミュニティ側の申請を採択した例もあります。
また、良い申請の条件はシンプルで:
- Proof of Work(過去の実績) があること
- アイデアだけなら「まず6か月作ってから来てほしい」
終盤の核心:最初のグラントが一番きつい理由
Calvin氏
OpenSatsの申請は、僕にとっては比較的簡単でした。すでに積み上げた作業があったから。
一番大変だったのは最初のBitMEXで、書類・面接・レビューなど全部合わせて 約6か月 かかった。
グランターの立場だと当然、
- この人は本当に仕事を続けるのか
- お金を渡した瞬間に消えないか
という疑いがある。ここを超えるために必要なのが実績の積み上げです。
「もう無給でやってるのに、なぜ資金が要る?」への答え
宮本氏
すでに何年も開発している人に対して、「もう勝手にやるなら金いらないのでは?」と思われませんか?
Calvin氏
そこで重要なのが “過去”と“これから”を分ける ことです。
- ここまでの1年でやったこと
- 次の1年でやること(より具体的に)
を分けて提示する。「継続します」だけでは弱い。具体性が増えるほど、資金が必要な理由の説得力も増えます。
まとめ:オープンソースで生計を立てるための3条件
このセッションで繰り返し語られた要点は、実務的に整理すると次の3つです。
- 情熱が前提:不安定さを受け入れられるか
- Proof of Work:実績が信頼を生み、次の資金に繋がる
- ミッション適合:提案書は団体ごとに作り直し、問題設定から合わせる
オープンソース開発は「理想論」ではなく、開発者による極めて現実的な戦略と継続の積み重ねで成り立っている、という話でした。




